なぜUXとビジネスを切り離して考えてはいけないのか
どんなに優れたUX改善も、それがビジネス成果に繋がらなければ、組織で続きません。ユーザーの体験を良くしたい ―― その想いがどれほど純粋でも、事業として成立しなければ、改善は次のフェーズに進めない。これは現場で何度も目にしてきた現実です。
逆もまた然りで、ビジネスの数字だけを追ってUXを軽視すると、短期的には売上が立っても、中長期で確実にユーザーが離れていきます。
UXとビジネスは、本来切り離して語るべきものではありません。
なぜ業界は「UXだけ」を語ってきたのか
それでも、UX業界には「ビジネスを語らない文化」が根強く残っていると、私は感じています。
理由はいくつかあると思います。UXがアカデミックな出自を持つこと。デザイナーやリサーチャーといった専門職がUXの担い手であること。ビジネスサイドとデザインサイドが、組織の中でも分断されがちであること。
どれも理由としてはうなずけます。けれど、結果として何が起きているかというと、「UXは大事だ」と言いながら、経営会議では話が通らないという事態です。
UXコンサルが「ユーザビリティを改善しましょう」と提案しても、経営層は「それは売上にどう効くのか」と問います。この問いに答えられないUXコンサルは、結局のところ「現場のデザイナーの代弁者」で終わってしまう。私はそういう光景を、何度も見てきました。
Dealがビジネスを語る理由
Dealを創業するとき、私たちは創業時点でUXとビジネスの両軸を持つ会社にしようと決めていました。
これは戦略的な選択というより、必然でした。共同創業者である河上は、ベンチャーキャピタルでの長いキャリアを持ち、ビジネスや投資の文脈を深く理解しています。一方で私は、UXの現場で組織の立ち上げまでを経験してきた。
UXの仕事をしていると、どうしてもユーザー視点にフォーカスが寄ります。それ自体は当然のことなのですが、視点がミクロに寄りすぎると、ビジネスや外部環境といったマクロの視座が抜け落ちがちになります。
河上は、まさにそのマクロの視点を提案の場に持ち込んでくれる存在です。本来、ビジネスとUXは非常に近いところにあるはずなのに、UX側だけで議論していると見落としてしまう論点を、彼の視点が自然に引き戻してくれる。それが提案の解像度を確実に変えています。
二人で話し合うとき、UX側の発想とビジネス側の発想は、いつもぶつかります。けれど、そのぶつかりの中から出てくる結論は、どちらか一方の視点だけでは決して辿り着けないものでした。
メンバーが集まったいまも、その姿勢は変わりません。UXに詳しい人もいれば、ビジネスに詳しい人もいる。プロジェクトの推進に強い人もいる。両軸を持つチームだからこそ、提案の解像度が変わるのです。
「UXだけで考える」と何が起きるか
私の経験から言えるのは、UXだけで考えると、「正しいけれど通らない提案」が生まれやすいということです。
これはDealの話ではありませんが、ビジネス側の文脈や開発コストへの考慮が足りないままUX提案を持っていくと、実現性の観点でクライアントに受け入れられないケースが多いように思います。
ユーザーリサーチで課題が見えた。改善案も出た。けれど、それを実装するには莫大な開発コストがかかる。あるいは、改善対象の機能はそもそも事業として縮小フェーズにある。あるいは、競合の動きを考えるとそこに投資すべきタイミングではない。
こうした事業・経営の文脈を踏まえずに「ユーザーのために改善すべき」とだけ言われても、経営者は動けません。動けない提案は、どれほど正しくても価値を生みません。
「ビジネスだけで考える」と何が起きるか
逆もまた、Dealが何度も見てきた光景です。
数字だけを追って、ユーザー体験を犠牲にする判断は、短期的には成立します。けれど、ユーザーが感じる小さな違和感は、確実に積み重なっていく。気づいたときには、解約率が静かに上がっていたり、新規獲得効率が悪化していたりする。
そして、ビジネス側がその「目に見えない劣化」に気づいたときには、もう手遅れに近いケースも多い。
UXは、「いまの数字」ではなく「これからの数字」を作るものです。だからこそ、ビジネス視点とUX視点を、同じテーブルで議論する必要があるのです。
私たちが提案するときに大事にしていること
Dealがクライアントに提案するとき、私たちが常に意識しているのは、「UXの正しさ」と「ビジネスの正しさ」の両方を、同じ文書の中で語ることです。
そのうえで、Dealの提案には大きく2つの特徴があります。
ひとつは、調査のクオリティへの徹底したこだわりです。
UX提案の質は、その手前にある調査の質で決まります。とくにユーザーインタビューでは、質問の仕方ひとつで得られる回答が大きく変わってしまう。バイアスがかかった質問の仕方をすれば、欲しい答えが返ってくるだけで、本当の課題は見えてきません。
私たちは、バイアスを極力排した聞き方、被験者の本音が自然に出てくる場の作り方を重視しています。提案の根拠となる一次情報の精度を落とさないことが、結局のところ提案全体の説得力に直結すると考えているからです。
もうひとつは、関係者の巻き込み方です。
Dealのプロジェクトには、必ずプロジェクトマネージャー(PM)が入ります。これは単に進行管理のためではありません。PMがクライアント側のマネジメント層と現場層の双方とコミュニケーションを取ることで、課題の明確化から実装、そして実際の運用プロセスまでを一貫して見渡せるようになるからです。
UXコンサルの提案にありがちな「現場では実装が難しい」「運用に乗せられない」といった問題は、提案段階で関係者を巻き込みきれていないことに起因することが多い。Dealでは、提案を「絵に描いた餅」にしないために、関係者の構造ごと提案に組み込むことを徹底しています。
ユーザー視点での課題があり、改善案がある。同時に、その改善が事業のどの指標に効くのかも明示する。実装コストや優先順位も、事業フェーズに照らして整理する。そして、現場で実装・運用できる形に落とし込む。
こうした提案を作るには、UXの専門性だけでも、ビジネスの専門性だけでも足りません。両軸を持つチームで、何度も議論を重ねる必要があります。
正直なところ、これは手間のかかるやり方です。けれど、この手間をかけるからこそ、提案がクライアントの経営会議で通るし、実装され、成果につながるのだと、私は信じています。
UXは、経営の言語で語られるべきだ
私が業界に対して感じている課題感は、シンプルです。
UXは、もっと経営の言語で語られるべきだということ。
ユーザーの体験を良くするということは、事業を伸ばすということと、本来は同じ方向を向いている話です。けれど、それぞれの専門性が分かれているために、組織の中では別々の議題として扱われている。
この分断を埋めるのが、これからのUXコンサルティングの役割だと、私は考えています。フレームワークを売る仕事ではなく、経営とユーザー体験を、同じ文脈で語れるパートナーになること。それがDealの存在意義であり、私自身がこれからもこだわり続けたいテーマです。
UXに本気で取り組みたいと考えている経営者の方には、ぜひ一度、UXとビジネスを同じテーブルで議論する経験をしてみてほしいと思っています。視界が変わる瞬間が、必ずあるはずです。
UXコンサルティングという仕事をしていると、不思議に思うことがあります。
それは、「UX」と「ビジネス」が、なぜか別々の言葉として語られていることです。
ユーザビリティ、リサーチ、ペルソナ、ジャーニーマップ ―― UXの専門性を語る言葉は数多くあります。一方で、売上、利益、事業成長、競争優位 ―― ビジネスの言葉も同じように豊かです。けれど、この二つを同じテーブルで語れる人は、私が知る限り、それほど多くありません。
私はこれを、UX業界の根深い課題だと考えています。
UXだけで終わる話は、世の中に存在しない
私は前職の通信系大手IT企業で、Webやアプリのディレクション、UX組織の立ち上げまでを経験してきました。その後、共同創業者とUXコンサルティング会社・Dealを立ち上げ、いまは経営者としてもUXに向き合っています。
そうした経験を通じて確信していることがあります。UXだけで完結する話は、世の中にひとつもないということです。
